やぶにらみ見聞録


       蜀紅とは?

  

顎のしょっこうは何にしますか? 胸のきっこうはどうしますか?



 多くの武道具店頭でよく交わされる会話です。 
剣士の皆様は「しょっこう」の本当の意味をご存じですか?

(燭光)、(曙光)、  多くのカタログにはこの文字が見かけられます。  
なぜこの文字なのですか?仏壇の光ですか?朝の”あけぼの”なのですか?

 
   

  蜀江











 我々職人会はこの文字が正解と考えています。
 
 蜀江とは3国志で有名な蜀の国を流れる揚子江の上流の川のことを表しています。
 (蜀は地名、江は河川を表しています)
 蜀の国の川は水のきれいなことで有名で、その流域で産出される絹でのみ織ることの出来る美しい紋様の織物が「蜀江の錦」として特にもてはやされました。


右地図は中国の三国志で有名な戦国当時の形勢図です。
「魏」、「呉」、とともに地図左下に「蜀」の文字が見えます。

 そこで織られる文様は4角型と8角形を組み合わせ、中心に草花や紋章を織り込みました。
上右画像の鮮やかな蜀紅織物をご覧下さい。


 中国の多くの貴人や皇帝達はこぞってこの高貴な紋様の織物をほしがり、蜀の国に進出を計りました。

 日本でも正倉院の宝物の1つとして有名で、数千年経た今なお色鮮やかな色と紋様を誇っています。


 亀甲

  ついでながら亀甲(きっこう)は亀の甲羅の紋様を表し、6角形が上下左右につながり、4角形と8角形の組み合わせの蜀江(しょくこう)とは根本的に違います。
 亀のこうらの文様が基本ですが、武道具に使用する場合、縦長にすると気が抜けて見えるところからあまり好まれず、多くは6角形の中心を横1線のみにして力強く見せています。

右の文様は6角形の中に更に6角を重ねて、2重に6角形のある所から2重亀甲と言います。


 剣道具では糸を使ってその紋様を表すところから「蜀紅」と表現しています。
 真摯に道を究める剣道に「蜀紅」を使用する事は名誉で、心底ふさわしいと我々製造家は誇りを持って製造しています。                         
 本来、その由緒あるがゆえに容易に使用を許されなかった高貴な紋様「蜀江」を誤字で埋める事はまことに残念です。