やぶにらみ見聞録

名は体を表す      火打ち


「火打ち」 という言葉をご存じですか?
昔、火消しや、やくざの女将さんが、主人の出かける際必ず石を打ちならして火花を散らせたあの火打ち石の「火打ち」です。   主人の縁起を担ぎ、無事を祈り、力強さを助けるためのあの火打ちです。

それが剣道具の部品名に存在するのです。
剣士の皆さん、面白いと思いませんか?   それこそ日本文化の賜なのです。
 


  名人 「三枝弘煕氏の面   取り付けられた下部の火打ちの様子
  そう、あの面の中の頬輪(丸い部分)の上と下に着装してあり、顎部分と額部分に接するあの部品です。

 部品名においては 「天地」が一般的に多く使用されていますが、外国にて普及品の多くが作られている現在、正しい名称が使用されず、中には「まんじゅう」とか「ぎょうざ」とか、全く本来とかけ離れた名称が使われている例があります。
 確かに餃子の形をしてはいますが、その名前を使用して本当に良いのでしょうか? 「まんじゅう」で良いのでしょうか?
 「まんじゅう」とは、中身を刺す言葉ではないでしょうか? (確かに火打ちの中身は綿のあんこが入っていますが−−−−−)

 面に於いても顔と面を固定する位置決めの力の掛かる部分の最重要部品なのです。
 面を着装する際顎から着けますが、その性もあり上部の火打ちより下部の火打ちにより多くの力が掛かります。
 そのため、普及品においても必ず下部の火打ちには補強革が当ててあるはずです。
先の三枝氏の面の火打ちも、その重要性をしっかりと理解し、顎との取り付け布部分を2重にして取り付け、働きを助け、見えないところに迄力を注いでおります。
そして極めつけは、そうあの「安政2年の面」   立派に火打ちが存在しています。


 「火打ち」という言葉は我々武道具業界のみではなく、大工、建具、表装、から和裁に至る日本の職人さんと言われる手作業に携わる人が日常的に使用し、その意味と働きと重要性が理解できる言葉なのです。
建物の土台の補強に使用されている三角材、建具のふすまの内部の、歪まないための補強の三角材、陣羽織の馬乗りのセンターベンツの別れ部分の補強布、袴の開き部分の補強布、全部「火打ち」なのです 

     
   大工の世界における火打ちの例     センターベンツの開き上部に当てる力布の例